白内障手術の時に、摘出した濁った水晶体の代わりに目の中にいれる眼内レンズの1つです。通常の眼内レンズでは、メガネやコンタクトレンズに多重焦点タイプの遠近両用があるように、眼内レンズにも多焦点眼内レンズがあります。人工的な眼内レンズにピント調節機能はないため、通常の眼内レンズでは、裸眼のピントを遠くに設定すると近くを見るには老眼鏡が、ピントを遠くに合わせると遠くを見るには眼鏡が必要になります。
白内障手術後の眼鏡装用を減らす、もしくはなくすことを目的として開発されたのが多焦点眼内レンズです。このレンズの誕生により白内障手術を機会に眼鏡のいらない生活を手に入れることができるようになってきています。多焦点眼内レンズには様々な種類があるため、その選択には患者様の生活スタイル、仕事や年齢に合わせて決定することとなります。また、日本で認可されている多焦点眼内レンズではご要望にこたえられない方でも、海外では様々な種類の眼内レンズが使用されています。当院では、国内承認の多焦点眼内レンズに加えて、未承認のレンズを幅広い選択肢からお選びいただけます。
レンズの種類
当院では、国内承認の多焦点眼内レンズをすべて取り扱っています。患者様の見え方のご希望にあったレンズを、患者様と相談しながら選択いたします。
目の状態やご希望によっては、国内で承認されたレンズでは条件を満たさないことがあります。その場合は、国内未承認レンズから選択することも可能です。
当院で取り扱っている多焦点眼内レンズは以下になります。
国内承認レンズ
- Clareon PanOptix (Alcon)
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遠方と近方に加えて、中間距離にも焦点を持つ3焦点型の回折型多焦点眼内レンズです。工学設計の工夫により従来の多焦点眼内レンズに比べてグレア、ハローがかなり軽減されます。また、遠方+近方、遠方+中間の2つのレンズを組み合わせたデザインになっています。他の回折型多焦点眼内レンズよりもコントラスト感度低下が少ないことが知られています。遠方、近方のみならず、デスクワークに不可欠な中間距離にもピントを合わせることができます。
- Clareon Vivity (Alcon)
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独自の波面制御設計により、焦点深度を拡張させて優れた遠方視と中間視および実用的近方視を提供します。細かい字を読む場合等に近方用の眼鏡が必要になる可能性がありますが、グレア、ハローやコントラスト感度については単焦点レンズと同様のため、夜間運転が必要な方や暗いところでの作業が多い方などに適しています。当院は日本で最初にこのレンズを使用した手術を行っており、それ以来多くの知見を得て使用しています。
- FineVision HP (BVI)
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遠方と近方に加えて、中間距離にも焦点を持つ世界初の3焦点型の回折型多焦点眼内レンズです。アポダイズ構造であることと回折格子の角を鈍的に加工することによってグレア、ハローがかなり軽減されるとともに、コントラスト感度低下が少ないことが知られています。遠方、近方のみならず、デスクワークに不可欠な中間距離もはっきり見ることができます。
- Tecnis Odyssey (Johnson & Johnson VISION)
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焦点深度拡張型眼内レンズと2焦点眼内レンズを組み合わせた、ハイブリッド型の多焦点眼内レンズです。焦点拡張型に回折型を組み合わせているため、遠方から中間距離までを連続的に見ることが可能であると同時に、コントラスト感度の低下が少なく、従来の回折型多焦点眼内レンズよりグレア・ハローを軽減できます。良好なコントラストを保ったまま良好な近方視機能を獲得することが可能になりました。
- TECNIS PureSee (Johnson & Johnson VISION)
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レンズの屈折を連続的に変化させることによって、遠方から近方まで光を分配して焦点深度を拡張しています。レンズ上にゾーン分けを行っていないため、単焦点同等の見やすさを提供します。グレア、ハローやコントラスト感度については単焦点レンズと同様のため、夜間運転が必要な方や暗いところでの作業が多い方などに適しています。遠方から中間までを鮮明にご覧になりたい方に適したレンズです。
- Vivinex Gemetric / Vivinex Gemetric plus (HOYA)
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遠方、中間(約80cm)、近方(約40cm)に焦点のピークを持つ3焦点眼内レンズです。レンズの周辺部は通常の単焦点レンズになっているため、グレア・ハローを軽減できます。最大の特徴は、Vivinex GemetricとVivinex Gemetric plusという遠近のバランスが異なる2つのモデルが用意されていることです。左右にそれぞれのモデルを使用することによって、両眼で見た時に十分な近方の視機能と、良好なコントラスト感度の獲得が可能になりました。
- Acriva Trinova Pro (VSY Biotechnology GmbH)
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3焦点眼内レンズですが、FineVision HPと同様に光学部の回折エッジは丸みのある形状に改良され、これにより従来の回折型レンズの欠点であるハロー・グレアが軽減されています。遠方から中間までの視機能が良好ですが、細かい字を読む場合等に近方用の眼鏡が必要になる可能性があります。
国内未承認レンズ
- RayOne Galaxy (Rayner)
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世界で初めて人工知能を用いて開発された多焦点眼内レンズです。レンズの中央部がらせん形状にデザインされており、遠方から近方まで連続した見え方を提供するとともに、グレア・ハローが非常に少なくなっています。
- RayOne EMV (Rayner)
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回折格子や屈折ゾーン分けなどの目に見えるレンズのデザインを行うことはせずに、球面収差を調整することによって焦点深度を拡張したレンズです。グレア、ハローやコントラスト感度については単焦点レンズと同様ですが、3焦点眼内レンズなどに比べると近方視力に限界があります。そのため、左右の目に少し度数に差をつけて使用します。
- INTENSITY (Hanita Lenses)
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本レンズは、遠方と近方に加えて、遠中、中間、中近の距離にも焦点を持つ世界初の5焦点型の多焦点眼内レンズです。他のレンズに比べて遠方~ 中間、中間~ 近方の距離にも焦点を合わすことができるようになりました。また、光エネルギーの損失が6.5%と他レンズに比べ少なく、効率よく眼内に光を取り入れることが可能となっています。さらに、レンズ構造上グレア・ハローの影響も少ないことも大きな特徴の1つと言えます。
- IC-8 (AcuFocus)
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中心1.36mmの穴の空いた黒いリングが入った眼内レンズです。レンズ構造は単焦点レンズですが、遠方が見やすいようにレンズ度数を合わせた場合でも、黒いリングが作り出すピンホール効果によって焦点深度が深まり、中間と近方も見やすくなります。夜間の光のにじみやまぶしさは、回折型・屈折型眼内レンズに比べて少ないと言われています。そのため屈折矯正術後に不正乱視を伴っている方や、眼に外傷がある方でも視機能の改善が期待できるとされています。
- MINI WELL READY Progressive IOL (SIFI-Medtech)
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従来の多焦点眼内レンズは、屈折型か回折型でしたが、どちらにも属さない球面収差を利用した累進焦点眼内レンズです。多焦点眼内レンズの特徴である夜間の光のにじみやまぶしさがほとんど出ないと言われ、夜間の運転が多い方に向いているレンズです。近方距離がやや弱いものの、遠方から中間距離まで連続して良好な視機能を獲得することができます。夜間の運転が多い方や片眼のみが白内障で手術をご希望される方には特に適しています。
- LENTIS Mplus / LENTIS MplusX (Oculentis)
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屈折型多焦点眼内レンズですが、同心円状に遠用・近用が交互に繰り返される構造とは異なり、カーブの違う2つの球面を組み合わせてできており、部分的に遠方用と近方用の度数が分かれています。両方の球面の中心は同じところにあり、遠方部分と近方部分の境目がないので、遠方視から近方視がスムーズにつながっています。この構造によって、コントラスト感度の低下を抑えて、グレア・ハローを軽減することができますが、約1m前後の距離が少し見にくいことが知られています。一方Lentis MplusXでは、中間・近方優位に改良され、中間から近方にかけてより見やすいようになりました。また、球面構造から非球面構造に変わったため、ハロー・グレアもこれまで以上に軽減されるようになりました。
- TRIVA (HumanOptics)
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特に中間〜近方の視機能が特に良好な3焦点眼内レンズです。回折格子の数を減らすことにより、グレア・ハローおよびコントラスト感度低下を軽減させています。コンピューター、タブレット、スマートフォンなどの現代の生活に欠かせないデジタル機器をちょうど見やすい距離に設計されています。
- ArtIOLs (VOPTICA)
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焦点深度拡張型の眼内レンズですが、遠方重視のArt25、遠方~中間に焦点が合うArt40、遠方~近方に焦点が合うArt70の3つのタイプのレンズがあり、患者様に最適なレンズを選択することができます。また左右で異なるタイプのレンズを挿入することも可能です。独自のデザインによって、中心だけではなく周辺部においても焦点が合うことで、良好なコントラストが得られ、術後に自然な見え方が期待できます。
多焦点眼内レンズの詳しい説明が、日本白内障屈折矯正手術学会のホームページに掲載されております。院長も制作に関わっており、わかりやすくまとまっております。ぜひご参照ください。
http://jscrs-multifocal.org/index.html
多焦点眼内レンズ術後に、近視・遠視・乱視などによって、裸眼視力が十分に上がらない方がいらっしゃいます。この場合は、医学的な適応があればレーシックによって近視・遠視・乱視を矯正することが可能です。
レーシックが必要になった方は、提携医療機関にて院長が執刀いたします。術後の診察は当院でお受けいただくことが可能ですので、ご安心ください。
多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、健康保険の適用外のため、保険外診療になります。